遺言と相続のQ&A
目次
- 胎児(生まれる前の子)は相続人になるのか
- 内縁の妻(夫)は遺産を相続できるか
- 養子にいっても実の親の遺産を相続できるか
- 母の連れ子は義父の遺産を相続できるか
- 損害賠償請求権は相続されるか
- 保証債務は相続されるか
- 借地を相続した場合の名義書換料は必要か
- 内縁の妻(夫)は借家に住み続けられるか
- 香典や弔慰金は相続財産か
- 生命保険金は相続財産か
- 死亡退職金は相続財産か
- 祭祀財産を承継したら相続分が少なくなるか
- 生前に行った相続放棄の約束は有効か
- 分割協議が終わらない間に遺産を処分したら
- 分割した遺産に瑕疵(欠陥)があった場合
- 遺産の一部を処分した後に相続放棄できるか
- 遺贈された貸家の家賃はいつから取れるか
- 受遺者が遺言者より先に死亡したら
- 債務はどのように相続されるか
- 相続財産の評価額の基準時
- 遺産分割後に新たな相続人が判明したら
- 遺産分割後に他にも遺産があることが判明したら
- 詐害行為取消権の対象となる行為は
- 遺言によって生命保険金の受取人を変更できるか
胎児(生まれる前の子)は相続人になるのか
人間の権利能力は、生まれたときから始まるのが原則です。
権利能力とは、法律上、権利義務の主体となることのできる地位または資格のことをいい、この権利能力はすべての人間が出生したときから取得します。
胎児はまだ生まれていませんので、権利能力を持つことはできません。
これが原則ですが、相続の場合にもこの原則を適用すると、同じ親を持つ子でも親が亡くなったときにすでに生まれていた子と、まだ胎児で生まれていない子の間で不公平が生じてしまいます。
そこで民法は権利能力は、出生したときに始まるという原則にいくつかの例外を設け、一定の場合は胎児であってもすでに生まれたものとみなすことにしています。
相続はこの例外規定のひとつですので、たとえ胎児であっても相続についてはすでに生まれたものとみなされ、親の財産を相続することができます。
ただし、これは胎児が生きていることが前提となっており、もし死産の場合はその子は親の財産を相続できないことになります。
もし遺産相続について相続人となりうる胎児がいる場合は、その胎児が生まれてから遺産分割協議を行ったほうがよいでしょう。
胎児を無視して遺産分割を行ってしまうと、後で胎児が生きて生まれてきた場合、もう一度遺産分割をやり直すことになり、トラブルの元になってしまう可能性があります。
なお、胎児の出生後に遺産分割をするとしても、その子の親が一方では親権者として未成年の子を代理し、もう一方では被相続人の配偶者として遺産分割をすることは法律上できません。
未成年の子と親権者との間でお互いの利益が相反してしまうので、このような場合は、たとえ親権者でも、その子を代理することはできません。
遺産分割は、親権者もその親権に服する未成年の子も同じく相続人となりますので、利益相反になってしまうからです。
このような場合は、家庭裁判所に申し立てて、家庭裁判所からその未成年の子のために特別代理人を選任してもらい、その特別代理人に子の代理をしてもらう必要があります。
内縁の妻(夫)は遺産を相続できるか
亡くなった人(被相続人)の配偶者は常に相続人になると民法では規定していますが、婚姻関係にない、いわゆる内縁の妻(夫)は遺産を相続できる配偶者には当たりません。
民法では、婚姻は届出をすることによってはじめて婚姻の効力が発生するものとしています。
内縁関係の場合は、婚姻の届出をしていないので、内縁の配偶者は相手方が亡くなっても当然には遺産を相続する権利はありません。
もし内縁の妻(夫)に遺産の全部または一部を譲りたい場合は遺言書を作成する必要があります。
ただし、遺言書を作ったとしても、一定の相続人に認められた相続分である「遺留分」に注意する必要があります。
遺留分を侵害する遺言書を作成してしまうと、遺留分を侵害された相続人から侵害された分の返還を請求されるおそれがあるので、遺留分を侵害しない範囲で遺産を譲る遺言書を作成したほうが余計な紛争を避けることができます。
また、法律上の手続きを取ってもなお、相続人の存在が不明な場合は、相続財産は国庫に帰属することになりますが、相続人捜索公告の期間満了後3か月以内に申し出をすれば、家庭裁判所は、
- 「被相続人と生計を同じくしていた者」
- 「被相続人の療養看護に努めた者」
- 「その他被相続人と特別の縁故があった者」
のいずれかで相続人にならなかった者に対し、相続財産の全部または一部を分与することがあります。
内縁の配偶者は、この特別縁故者にあたる場合が多いですが、この手続きで相続財産を受け取ることができるのは、あくまでも相続人がいない場合です。
養子にいっても実の親の遺産を相続できるか
養子縁組をすると、養子と養親との間に親子関係が生じますので、遺産について相続権が発生します。
しかし、養子と実の親との間の親子関係は切れるわけではなく、実の親の財産に対しても相続権があります。
これは普通養子についてですが、特別養子によって養子となった場合は、実の親の財産を相続することはできません。
特別養子は、幼少時の養子について、実の親との親子関係を絶ち、完全に養親の子とする制度です。
特別養子制度の特徴は次のとおりです。
- 特別養子となれる子は実際の監護が著しく困難であるなどの特別な事情がある6歳未満の子ですが、例外として6歳に達する前から引き続いて養親となる者に監護されている8歳未満で、その子の利益のために特に必要があると認められる場合にも認められます。
- 家庭裁判所は、養親となる者の申し立てに基づいて、6か月以上の試験的な養育状況をみて、審判により縁組を成立させることができます。
- 縁組の成立には、原則として実親の同意が必要ですが、実親が意思表示ができない場合や虐待など、養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は不要です。
- 養親となる者は婚姻しており、夫婦が一緒に養親となる必要がありますが、夫婦の一方が、もう一方の嫡出子または特別養子と縁組する場合を除きます。
- 25歳に達しない者は養親となることができませんが、夫婦の一方が25歳以上であればもう一方は20歳に達していれば養親となることができます。
- 縁組の成立によって、特別養子は養親夫婦の嫡出子としての身分を取得し、実親およびその親族との関係は終了します。
- 離縁は原則として認められません。
- 特別養子は戸籍を一見しただけでは養子であるとわからないような記載がされます。
母の連れ子は義父の遺産を相続できるか
亡くなった人(被相続人)の子は第1順位の相続人となります。
しかし、前の夫との間の子を母が連れ子として伴って別の人と再婚しても、それだけではその子は今の夫の子とはなりません。
法律上、義父と母は夫婦であっても、連れ子と義父は親子関係にありません。
つまり、義父が亡くなったとしても、母は遺産を相続できますが、親子関係にない連れ子は遺産を相続することができません。
しかし、義父が母と再婚した時や再婚後など、義父が生きているうちに連れ子との間で養子縁組をした場合、連れ子も養子縁組の時から養親の嫡出子となるので、義父の子として扱われ、義父の財産を相続することができます。
また養子縁組をせずに義父が亡くなってしまった場合でも、連れ子に遺産を与える内容の遺言を作成しておくことで、連れ子も義父の財産をもらうことができます。
損害賠償請求権は相続されるか
例えば交通事故が起こった場合、その交通事故が運転者など加害者の故意または過失によるものであるときは、直接の加害者である運転者やその使用者である会社などを相手にして損害賠償の請求をすることが可能です。
被害者である被相続人が交通事故によって死亡した場合、被害者の取得した損害賠償請求権はすべて相続人が承継し、相続人がこの損害賠償請求権を行使することになります。
請求することができる損害の内容としては、まず被相続人が生きていられたら将来得られたであろう財産的利益を「逸失利益」として計算します。
逸失利益は、平均寿命と就労可能年数を統計から割り出し、年間収入と稼働年数をかけて収入を計算し、そこから被相続人の生活費と前払いを受けることによる中間利息を控除して算出します。
現在では、この逸失利益の損害賠償請求権は死亡に至る傷害の瞬間に被害者に発生するとされていますので、それらを相続人が相続します。
その他に入院治療費など加療に要した費用も損害に当てはまるので請求できます。
医師の指示や傷害の程度等によって必要があれば、入院付添費も損害として認められることがありますし、医師への謝礼なども、それが社会通念上相当なものであれば、独立の損害として認められる可能性があります。
その他に葬儀費用なども相当額の範囲内であれば、損害といえますし、物的損害もあればそれも同様です。
次に非財産的損害ですが、人は生命、身体、名誉などを侵害された場合、その精神的損害についても賠償を請求することができます。
この精神的苦痛の賠償を金銭に見積もったものを「慰謝料」といいます。
現在の判例では、生命侵害についての慰謝料請求権は、当然に相続されるとしています。
慰謝料の算定は、現在ではある程度定型化されていますが、加害者に故意やひき逃げ、飲酒運転、無免許運転などの重過失がある場合は、慰謝料の額が多めに算定されることもありえます。
その他に被害者の配偶者や子として、独立した慰謝料請求をすることも可能です。
保証債務は相続されるか
普通の保証では、保証債務は相続人に相続されるものとしており、判例も賃借人の賃貸借による債務の保証について、相続人に承継されるとしています。
保証人の死亡によって債務が保証されなくなると債権者に損害が発生するおそれがあり、保証制度そのものが不安定になると考えられているからです。
保証には1回限りの債務に関してではなく、継続的な取り引きから発生する一切の債務について保証する場合があります。
これを「根保証」や「包括信用保証」といいます。
このような継続的な保証では、普通の一時的な保証と違って、保証人は長い期間にわたって保証することになる場合が多く、責任も広がってしまうおそれがあります。
したがって、継続的な保証では主たる債務者と保証人との間に深い信頼関係がある場合が多くなります。
継続的な銀行取引などでは、このような継続的な保証の約定がよく結ばれます。
継続的な保証の場合の保証債務を相続人にそのまま相続させると、相続人に考えてもいない重い責任を背負わせることがありますので、継続的な保証の場合は、原則として保証債務は相続人に相続されないと考えられています。
次に身元保証ですが、身元保証契約とは保証人が使用者に対して、本人である被用者が使用者に与える損害について賠償するという契約のことをいいます。
身元保証契約は、普通の保証以上に個人的な信頼関係の強い性質を持っていますので、身元保証の債務は相続人に相続されない被相続人の一身専属的な債務であると考えられています。
借地を相続した場合の名義書換料は必要か
被相続人が土地を借りて、そこに住宅などを建て、その後被相続人が亡くなった場合、その土地の借地権は死亡と同時に相続人に相続されます。
この場合は借地権の譲渡などと違って、当然に借地人の地位を引き継ぐので、相続人として新しく借地人となった者も地主に名義書換料などを支払う義務はありませんし、地主からの名義書換料の支払いを請求されても応じる必要はありません。
親から子などへ借地人の名義が変更されたのだから、借地権が譲渡された場合の借地人の変更と同じように、相続の場合でも名義書換料が発生するものだと考えられそうですが、そうではありません。
地主が名義書換料を支払わないのであれば、新しい賃借人に土地を貸すことができないとして、土地の明け渡しを求めてきても、法律上応じる必要はありません。
なお、地主が「土地は被相続人に貸していたわけで、相続人である新しい賃借人に貸していない」と主張して、新しい賃借人が持参した地代を受け取らない場合には、その地代を(※)供託する必要があります。
※供託とは、金銭や有価証券などを国家機関である供託所(法務局・地方法務局またはそれらの支局もしくは法務大臣の指定する出張所)に提出して、その管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成しようとするために設けられている制度です。
内縁の妻(夫)は借家に住み続けられるか
借家権も重要な相続財産のひとつなので、借家人が亡くなると、相続人がその借家権を相続することになります。
借家権が借家人の相続人にそのまま相続によって承継されると、内縁の妻は相続人ではないので、借家権を相続できないことになります。
しかし、借家人の相続人や家主が内縁の妻に対して借家の明け渡しを求めたら、内縁の妻は住むとことを失ってしまいます。
内縁の妻も借家の名義人である内縁の夫と家族として一緒に生活しており、借家人の家族は借家人の借家権を主張してその家に住むことが可能だったわけなので、これは家主に十分対抗できる根拠だといえます。
そうなると、借家人が亡くなった後といっても、相続人は内縁の妻がその家にそのまま住み続けることを認めるべきですし、内縁の妻は夫が生きているときと同じように家主に対して、相続人に承継されたその家の借家権を主張して、これまでと同様にその家に住み続けることができるといえますし、判例も同様な考え方をしています。
では、内縁の夫の相続人から明け渡し請求があった場合はどうなるのでしょうか。
借地権は相続財産であり、それを相続したのは相続人であって内縁の妻ではないので、借家を明け渡さなければならないように思われます。
しかし、内縁の妻であっても長年、家族として生活してきたわけなので、それらの事情は尊重されなければなりません。
そのようなことから、判例では特別の事情がない限り、内縁の妻は今まで通りその家に住むことを認めています。
内縁の妻には借家権もその相続権もないという理由で今まで住んでいた家から追い出されるのは、権利の濫用と判断されることになりかねません。
香典や弔慰金は相続財産か
香典には亡くなった人を供養する意味合いも含まれていますが、本来の性質は葬儀費用の一部を負担することをねらいとした贈与だといえます。
したがって、香典は葬式の主催者である喪主あてに贈られているといえるため、相続財産とはなりません。
通常、喪主は香典を葬儀費用にあて、残りがあるときはその裁量によって、その後の供養の費用にあてることにしても、どこかの団体に寄付するなど自由に処分して構いません。
香典が喪主への贈与で相続財産に入らないということは、これらについて喪主以外の相続人から分配を求めることができないことになります。
また、被相続人の会社などから弔慰金が支払われることがありますが、弔慰金が香典の性質を持つものと、死亡退職金の性質を持つものがあります。
香典の性質を持つものであれば、先ほどのように喪主への贈与と考えられますし、死亡退職金の性質を持つものであれば、通常、会社の内部規定によって受取人が決められています。
受取人が決められている場合は、その人固有の権利となる場合もあり、その人が相続人であれば特別受益にあたるときもあります。
生命保険金は相続財産か
被相続人が生命保険に加入しており、保険契約者でもあり、かつ被保険者(その人が亡くなったら生命保険金が支払われる対象の人)になっている場合、被相続人が亡くなると生命保険金は相続財産になるのか、受取人の固有の財産になるのかはそれぞれのケースによって違います。
保険金受取人が特定の相続人とされている場合
例えば、夫が妻を保険金の受取人にしている場合の生命保険契約は第三者のためにする契約なので、保険金受取人と指定された相続人は、保険契約の効果として当然に生命保険金請求権を取得することになります。
したがって、生命保険金は相続財産ではないので、限定承認や相続放棄をした場合でも受け取ることができます。
保険金受取人が相続人と指定されている場合
相続人が1人であれば、その人が生命保険金をすべて受け取ることになりますが、相続人が複数いる場合は、法定相続分の割合で生命保険金を分けるものとされています。
保険金受取人が被相続人本人とされている場合
支払われる生命保険金は、いったん被相続人に帰属することになるので、相続人は保険金を相続によって取得するとされるのが一般的です。
つまりこの場合の生命保険金は相続財産に含まれると考えられています。
保険金受取人に指定した人が被相続人本人よりも先に亡くなった場合
被相続人は、保険金受取人の変更をすることができます。
しかし、保険金受取人の変更をしないまま亡くなってしまうと、保険金受取人の相続人全員が保険金受取人となります。
新しい保険金受取人は平等に保険金請求権の割合を取得するものとされています。
死亡退職金は相続財産か
働いていた人が会社や役所から退職金の支給を受けた後、死亡すれば、その退職金は相続財産の中に含まれます。
しかし、働いていた人が退職しないうちに死亡し、その後、被相続人の勤めていたところから遺族に対して退職金が支給された場合は、相続に関連して問題となります。
被相続人が死亡することによって、勤めていたところから支払われる退職金は、広い意味で賃金の一部であり、未払い賃金の性質を持っているお金だといえます。
したがって、実質、死亡退職金は相続財産にきわめて近いものといえます。
しかし、死亡退職金が支払われる根拠は、法律の規定や会社の内部規定によるのが通常です。
死亡退職金の支給を受ける人も法律や会社の就業規則などの内部規定によって決められるのが一般的です。
例えば、国家公務員については、国家公務員等退職手当法が支給を受ける遺族の順位をきちんと定めています。
そのようなこともあり、死亡退職金は相続財産に含まれないと解されているのが一般的です。
つまり、死亡退職金を受け取った人以外の相続人が死亡退職金の分配を請求することは当然にはできないということになります。
ただ、死亡退職金が相続財産ではないとしても、相続人が複数いる場合に、そのうち1人だけが死亡退職金を受け取ったとなると、他の相続人との間で不公平な結果となってしまいます。
そこで、これを相続財産の前渡しや特別受益分とみなして、遺産の分割にあたっては、死亡退職金の分を相続分から控除して計算するのが通常です。
しかし、そのように扱うとしても、全額を認めるのか、一部についてしか認めないのかなどという問題があり、具体的にはいろいろなケースがあり、一概にはいえず状況によって判断することになります。
祭祀財産を承継したら相続分が少なくなるか
民法では、「相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」としていますが、これには例外があり、系譜と呼ばれる家系の系図や書面、仏壇・仏像・神棚など礼拝に使用する祭具、墓地や墓石などの所有権は別の取り扱いとなっています。
民法では、これらの祭祀財産は特定の1人に承継させることになっています。
民法の原則どおりに複数の相続人で分配してしまうと、祖先の供養や祭祀に支障が起こるため、祭祀財産は相続財産を構成しないものとして相続財産から除かれています。
祭祀財産を承継する者の決定方法は、第一に被相続人の指定によって決まります。
指定は遺言によってもできますし、生前に他の方法で指定することもできます。
次に、被相続人による指定がないときには、その地方の慣習やしきたりに従うことになります。
被相続人が商店や農業などを営んできた場合には、その家業を受け継いだ相続人、多くの場合は長男が祭祀承継者となるのが実務上の慣行だといえるでしょう。
さらに被相続人の指定もなく、慣習も明らかでない場合は、家庭裁判所の調停もしくは審判によって決められます。
祭祀財産を承継することになった相続人は、他の相続人よりも、そのことによって特に多くの遺産を得られる権利を持つわけではなく、逆に祭祀財産が財産的に価値のあるものだとしても、祭祀財産を承継したからといって、その分だけ取得できる遺産を減らされるわけではありません。
他の相続人たちとの話し合いで、法要その他で多くの費用が必要だからだということで、遺産分割の際に祭祀承継者にそれらの費用分を多く相続させる協議がまとまれば別ですが、そうでない限り、祭祀承継者も特別多くの遺産を得る権利を持つわけではありません。
つまり、祭祀財産を承継したとしても、遺産分割協議の際に他の相続人から祭祀承継者の相続する遺産をその分から差し引くという主張は認められません。
生前に行った相続放棄の約束は有効か
相続放棄とは、誰かが死亡することによって発生する相続する権利を放棄することですので、誰も死亡しておらず、相続する権利がまだ発生してない状態では相続放棄をすることはできません。
つまり、生前に行った相続放棄の約束は法律上無効となります。
たとえ生前に相続放棄をすることについて何らかの念書や契約書などを作成していてもそれらに効力は全くありません。
このような生前に相続放棄するという約束を有効とすると、生前に推定相続人に被相続人や他の推定相続人が強制して相続放棄をさせるなどさまざまな弊害が生まれるおそれがあるからです。
もし相続放棄の約束をしたとしても、相続開始後、相続人が相続放棄する義務はありませんし、相続放棄の申述をしてくれることを期待するくらいの効果しかありません。
被相続人が亡くなった後に、あらためて家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければ、相続放棄をしたことになりません。
あくまで自由な意思に基づいて、被相続人が亡くなった後に相続放棄するかどうかを決めることになります。
もし相続放棄をしていないのに、その人を含めず遺産分割協議が行われた場合、その協議は無効となり、再度相続人全員で協議をおこなう必要があります。
その一方、相続放棄とは異なり、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められている遺留分については、生前に放棄することが認められています。
分割協議が終わらない間に遺産を処分したら
相続人は相続開始(被相続人が亡くなったとき)から相続財産を承継しますが、相続人が複数いる場合は相続財産の承継と実際の遺産分割との間には、ある程度時間が空くことになります。
この相続財産の承継と実際の遺産分割の期間は、共同相続人全員で相続財産を共有していることになります。
遺産分割前は共同相続人全員での共有状態ということなので、相続人のうちの誰かが売買などで勝手に処分すると他の相続人の持分まで処分してしまうことになるので、その処分は無効ということになります。
遺産分割前の相続財産についての「管理」については、相続人はそれぞれ相続財産を使用・収益をすることができます。
建物や家屋の修理などの「保存行為」は、相続人1人が単独でおこなうことが可能です。
土地を駐車場として貸すなどの「利用行為」や家屋に造作をするなどの「改良行為」は、相続分の割合にしたがって過半数の合意でおこなうことができます。
不動産の売却や建物を取り壊したりする「処分行為」は、相続人全員の合意がなければおこなうことができません。
遺産が分割されるまでの間の相続財産の管理については、相続人は相続発生後3か月の熟慮期間であっても、相続財産を自分の財産と同じような注意をもって管理しなけばならないとしています。
また相続放棄をした後でも、その放棄によって相続人になった者が相続財産の管理をできるようになるまでは、同じように相続財産を自分の財産と同じように注意して管理を継続しなければなりません。限定承認をした者も同様です。
相続財産を管理している相続人の管理の方法に問題があるなど、保全が十分でないと認められる場合は、利害関係人はいつでも家庭裁判所に申し立てて、相続財産の保全に必要な措置を取ってもらうことができます。
分割した遺産に瑕疵(欠陥)があった場合
共同相続人の間で遺産の分割をするということは、相続発生後、相続人全員で共有していた遺産をそれぞれの相続分に応じて交換したことと同じようなものです。
そこで、民法も共同相続人間の公平を図るために、各共同相続人は他の相続人に対して、売買の場合の売主と同じように、相続分に応じて担保責任を負うと規定しています。
したがって、遺産分割によって取得した財産に隠れた瑕疵(欠陥)があった場合、その財産を取得した相続人は、他の共同相続人に対して、不足分に応じた代金の減額請求や損害賠償、解除などをすることができます。
隠れた瑕疵の例として、「権利の一部が他人にものであった」、「土地の広さが不足していた」、「抵当権の実行によって所有権を失った」などがあります。
このような場合に実際におこなわれるのは、損害賠償の請求がほとんどです。
損害賠償の額は遺産分割時を基準にして算出しますが、この場合、相続人全員がそれぞれの相続分に応じて担保責任を負うことになります。もちろん瑕疵のある財産を取得した相続人も担保責任を負う全相続人の中に含まれます。
担保責任の存続期間は、その相続人が瑕疵のあることを知ったときから1年です。
共同相続人の中に担保責任を負えるほどの資力を持っていない人がいる場合は、その資力のない相続人の負担するべき部分は、他の相続人全員で相続分に応じて負担しなければなりません。
この場合も瑕疵のある財産を取得した相続人も相続分に応じて負担します。
遺産の一部を処分した後に相続放棄できるか
民法では、相続人が以下の行為をした場合、その相続人は単純承認したものとみなされます。
- 相続財産の全部または一部を処分したとき
- 限定承認や相続放棄をすることができる3ヵ月の熟慮期間内に限定承認も相続放棄もしなかったとき
- 限定承認や相続放棄をした後でも相続財産の全部または一部を隠匿し、ひそかに消費し、または悪意で財産目録に記載しなかったとき
このような場合に単純承認したものとみなされるのは、相続人の意思の推定や相続人による相続財産の処分を信頼した第三者の保護を考慮しての規定です。
ただし、相続財産の処分でも、建物の修理などの「保存行為」と「短期の賃貸借」(樹木の栽培または伐採を目的とする山林の賃貸借は10年、その他の土地の賃貸借は5年、建物の賃貸借は3年、動産の賃貸借は6ヵ月を超えない期間)は相続債権者などに損害を与える度合いが小さいので、例外的に単純承認とはならないものとされています。
遺贈された貸家の家賃はいつから取れるか
貸家のような特定遺贈の場合は、遺贈者の死亡と同時に目的物の所有権が受遺者に移ります。
ただ、新しく貸家の持ち主となったとしても、貸家の賃借人に対して、家賃を支払うよう請求するには、原則としてその貸家の登記簿上の所有名義を受遺者に移しておくほうがよいでしょう。
もし賃借人が受遺者に家賃を支払うことを拒否すれば、受遺者は所有権の移転登記をしたときから賃借人に家賃の支払いを求めることができるようになります。
貸家の所有権は、遺贈者から直接、受遺者に移転することになります。
遺贈者の相続人に帰属したうえで受遺者に移るということではありませんので、遺贈者が死亡したときから貸家の家賃をとることができるのは、受遺者であって相続人ではありません。
民法では、受遺者は原則として遺贈が効力を生じたときから遺贈の目的物の果実(利益)を取得すると規定しています。
受遺者以外の相続人が勝手に家賃を集金して、取得している場合は、受遺者は他の者に対して家賃全額を不当利得として返還するよう請求することもできます。
その反面、遺贈の義務を負う者が遺言者の死後、遺贈の目的物である貸家について費用を支出している場合、受遺者はその費用を償還して清算する必要があります。
なお、不特定物の遺贈がおこなわれたときは、それが特定されたときに受遺者に所有権が移転するものと考えられています。
受遺者が遺言者より先に死亡したら
遺贈(遺言による贈与)は、遺言者が死亡したときから効力を生じます。
しかし、遺言者よりも遺贈を受ける人である受遺者が先に死亡してしまった場合は、原則として遺贈は無効となります。
遺言者と受遺者が同時に死亡した場合も同じように遺贈は無効となります。
この場合、遺贈そのものが無効となってしまうので、受遺者の子が受遺者の地位を相続することはできませんし、もちろんその遺贈を代わって受けることもできません。
ただし、場合によっては遺言者がこれとは異なる意思表示をした場合、つまり受遺者が遺言者よりも先に死亡したときは、受遺者の相続人に遺贈するという内容の遺言書を作成しておけば、遺言どおりの効力が生じます。
債務はどのように相続されるか
債権債務も一身専属的なものを除いて、相続の対象になりますが、金銭債務などのような分割可能な債務については、法定相続分に従って分割承継されます。
連帯債務の相続についても分割可能な債権の1つとして、各相続人は当然に法定相続分に従って、分割された額の範囲の債務を承継し、その額の範囲内で本来の債務者と共に連帯債務の関係に立つものとしています。
例えば、被相続人が1,000万円の債務を残して亡くなり、2人の子が相続人である場合、500万円の範囲で2人の相続人がそれぞれ債務を負うことになります。
被相続人が債務について、特定の相続人に相続させるよう遺言をしたり、相続人間の遺産分割協議で1人の相続人がその債務を相続するように合意したりすることがありますが、これらの行為は相続人間での合意であって、債権者には効力が及びません。
債権者としては、相続人間の合意を承諾して、その1人の相続人に全額の請求をすることも、相続人全員に相続分に従った支払いを求めることもできます。
債務の中でも芸術作品を制作するような債務や雇用契約上の労務提供債務などは、他人が代わって引き受けることができないので、一身専属的な債務として、相続の対象とはなりません。
身元保証債務についても、保証の内容や上限が不明確であることや、契約が個人的信頼関係に基づいて存続するものなので、一身専属的な債務とされ、特別な事情がない限り相続の対象となりません。
相続財産の評価額の基準時
遺産分割は、相続開始時(被相続人の死亡時)に存在した遺産を分配することであり、遺産分割の効果は相続開始時にさかのぼって生じますので、相続開始時の評価を遺産分割の基準とするのが相当です。
しかし、相続が開始すればすぐに遺産分割を行わなければならないという決まりはなく、相続開始から長い時間が経ってから遺産分割が行われることもよくあります。
そうなると、相続開始時の遺産の評価が上がったり、下がったり、価値がなくなったりするなど遺産分割時には大きく変わっていることも考えられます。
そのような場合にまで相続開始時の評価を基準に遺産を分割すると不公平な結果を招くことにもなりかねません。
また、遺産分割の方法は、まず相続開始時に被相続人が有していた財産に特別受益分を加えたり、寄与分を差し引いたりして、相続人それぞれの具体的な相続分を算定し、次にその具体的な相続分の割合に応じて、現実の遺産分割をするという手順で行われます。
相続財産の評価の基準時についても、「個々の相続人の具体的相続分を算定する場面」と「具体的相続分に応じて現実に相続財産を分割する場面」との二段階に分けて行います。
「個々の相続人の具体的相続分を算定する場面」では、相続が開始されたときの評価を基準とし、「具体的相続分に応じて現実に相続財産を分割する場面」では、不公平な結果をさけるため、相続財産を分割するときを基準とするのが一般的です。
例えば、相続人が配偶者と子2人で相続財産が2,000万円、配偶者の特別受益が400万円の場合を考えてみます。
みなし相続財産は2,400万円(2,000万円+400万円)、配偶者の相続分は2,400万円の2分の1=1,200万円から特別受益の400万円を引いた800万円となります。
これが第一段階である「個々の相続人の具体的相続分を算定する場面」です。
それから数年後に遺産分割の話し合いが行われることになり、相続財産の中で不動産が値下がりした場合は、第二段階である「具体的相続分に応じて現実に相続財産を分割する場面」として、再度評価することになります。
遺産分割後に新たな相続人が判明したら
相続財産は相続開始の時から相続人に承継され、相続人が複数いるときは相続分に応じた共有となります。
遺産分割協議は、この相続財産の契約による処分なので、相続人全員の合意によって行わなければならず、一部の相続人を除いて行われた遺産分割は無効となります。
したがって、遺産分割協議を行うには、被相続人の出生から死亡までの戸籍を調査して相続人をきちんと把握する必要があります。
また、相続人の一部が所在不明である場合は「不在者財産管理人」を選任して、遺産分割手続きを進めなければなりません。
相続欠格に該当するかどうかに争いがある場合や推定相続人の廃除の請求がされている場合には、その紛争の結果が出てから遺産分割を行うことになります。
遺産分割当時は戸籍上存在しなかった相続人が、遺産分割後に出現することがあります。
例えば、遺産分割後に認知によって相続人になる場合がありますが、この場合、民法では相続分に応じた価格(金銭)の請求のみを認めており、すでに行われた遺産分割は無効とはなりません。
認知は出生のときにさかのぼって効力が生じるので、遺産分割後に認知された者も相続開始のときに相続人であったことになりますが、認知の遡及効は第三者がすでに取得した権利を侵害することはできないとされているため、遺産分割後に認知によって相続人となった場合でも遺産分割のやり直しを求めることはできません。
そこで、このような相続人の権利を保護するために、遺産分割が終了した後に認知された者は、相続分の価格を請求する方法を認めています。
遺産分割後に他にも遺産があることが判明したら
遺産分割は、遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行うものとされており、遺産は総合的に分配されるべきものなので、そのためには、同時にすべての遺産の分配をしたほうがその趣旨に合致するといえます。
しかし、ある財産が遺産に含まれるかどうかが争われていたり、一部の遺産については早く帰属先を確定する必要があるなど、一部を分割して行う必要が認められる場合があります。
そこで、遺産の存在が判明していれば、全く異なった遺産分割になっていた場合や、遺産分割をやり直す必要が認められる特別な事情がある場合は、遺産分割をやり直すことになりますが、そうでない場合には、最初に行われた遺産分割は有効なものとし、新たに判明した遺産について分割手続きを行うことになります。
最初に行われた遺産分割が有効である場合に、残余財産の分割では、先に行われた遺産分割の結果を考慮して全体として不均衡にならないように分割するべきか、先に行われた遺産分割の結果は考慮せず、残余財産について分割を行うべきかが問題となります。
もし、自分の法定相続分よりも少ない財産を相続した相続人の意思が、不足分について、持分の放棄や他の相続人などへの譲渡の意思であった場合には、残余財産の分割については、当初の遺産分割の結果を考慮する必要はありませんが、そのような特別な意思がない場合には、残余財産の分割において、当初の遺産分割の不均衡を修正すべきとしています。
詐害行為取消権の対象となる行為は
詐害行為取消権とは、債権者の一般財産を回復するために、債務者が債権者を害することを知りながら行った法律行為を取り消すことができる権利です。
ただし、債務者が行った法律行為のうち、財産権を目的としないものは取消権の対象とはなりません。
財産権を目的としない法律行為としては、婚姻、縁組、離婚による財産分与、相続の承認・放棄などの身分行為があります。
遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、財産権を目的とする法律行為であるとして、詐害行為取消権の対象となります。
債務者である相続人が債権者からの追及を免れるために自分の相続分をゼロとする遺産分割協議を行うことと、相続放棄をすることは結果としては同じですが、相続放棄は詐害行為取消権の対象とはなりません。
詐害行為取消権の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることが必要で、消極的にその増加を妨げるにすぎない行為は含まれないとし、相続放棄は、相続人の意思からいっても、法律上の効果からいっても、既得財産を積極的に減少させる行為というより消極的にその増加を妨げる行為に該当するという理由からです。
また、相続放棄を詐害行為として取り消すことができるとすれば、相続人に対して相続の承認を強制することと同じ結果になってしまいます。
離婚における財産分与も身分関係の変動に伴う財産の変動である点では遺産分割と共通しています。
財産分与という名のもとに行われた財産処分であると認められるような場合は、詐害行為取消権の対象となりますが、それ以外の場合は、詐害行為取消権の対象とはならないとしています。
離婚に伴う慰謝料の支払いについても原則として詐害行為取消権の対象とはなりませんが、損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払いと称した金銭の贈与契約または対価のない新たな債務負担行為であるとして、詐害行為取消権の対象となる場合もあります。
遺言によって生命保険金の受取人を変更できるか
生命保険契約とは、「保険者(保険会社)」が人の生存又は死亡に関し一定の保険給付を行うことを約する保険契約です。
生命保険契約において、保険給付を受ける者は「保険金受取人」と呼ばれますが、これは保険契約者が指定します。
保険契約者自らが保険金受取人になっても、第三者を指定しても構いません。
保険契約者は、保険契約締結時に保険金受取人を指定するのが通常ですが、生命保険契約は継続・長期の契約であるため、保険契約者は、保険事故が発生するまでの間は、保険金受取人をいつでも変更することができます。
これまで保険金受取人の変更方法について、最高裁は保険金受取人を変更する旨の意思表示は保険者だけでなく、新旧保険金受取人のいずれに対してなされてもよいとしていました。
平成22年に施行された保険法において、保険金受取人の変更は遺言によってもすることができるようになりました。
またその遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人が保険金受取人変更の意思表示を保険者に対してなされなければならないと規定されました。
裁判所では、「保険金受取人変更の意思表示は、保険契約者の意思表示として確定的に成立した時点で直ちに効力を生じ、相手方に対してなされることを要しないものと解すべきである」として、遺言による保険金受取人の変更を認めました。その後の裁判でも同様の判断がされています。



