遺贈とは

遺贈とは、遺言によって財産的な利益を無償で贈与することをいいます。

遺贈は、死亡によって効力が発生する無償の財産処分という点で「死因贈与」に似ています。(遺贈と死因贈与の違いについては以下に記載)

遺贈をする人を「遺贈者」といい、遺贈を受ける人を「受遺者」といいます。

受遺者となる資格を「受遺能力」といい、受遺能力は遺贈の内容である財産的利益を享受できるの資格のことで、権利能力に等しいといえます。

受遺能力は、遺言が効力を発生するときに存在する必要があります。

ただし、相続の場合と同じく、胎児は遺贈についてもすでに生まれたものとみなされますので、受遺能力があります。

相続欠格者は遺贈についても欠格となりますので、遺贈を受けることはできません。

遺贈の内容に沿った給付をおこなう義務を「遺贈義務」といい、その義務を負う人のことを「遺贈義務者」といいます。遺贈義務者は、原則として遺贈者の相続人です。

相続人が複数いる場合は、全員が共同して遺贈義務を負いますが、その負担は相続人それぞれの相続分の割合に応じて配分されます。

遺言執行者がいるときには、相続人の代理人であり、遺言の失効に必要な一切の行為をする権利義務を持つものとして、遺言執行者が遺贈義務者となります。

遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。

また、条件や始期をつけた遺贈や受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈である負担付遺贈も認められています。

包括遺贈とは

包括遺贈とは、遺言者が遺産に抽象的な持分で示しておこなう遺贈のことをいいます。

遺産の2分の1、遺産の30%といった割合で示すのが典型的ですが、遺産全てという場合も包括遺贈に含まれます。

これに対して、「遺産の中の不動産を全部」とか「預貯金の2分の1」といった場合には、対象が個別具体的に示されておらず、割合で示されているにとどまりますが、遺言の効力発生のときには自動的にあるいは選択的に対象が特定することになりますので、通常は特定遺贈と考えられます。(特定遺贈については以下に記載)

包括遺贈を受ける人を「包括受遺者」といい、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。

すなわち、包括受遺者は指定された持分(受遺分)について、受贈者の財産上の権利義務を包括的に承継する一方、遺贈の単純承認、限定承認、放棄をすることができます。

相続人と受遺者の違いは次のようになっています。

  • 包括遺贈には代襲が認められませんので、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、遺贈は無効となります。
  • 包括受遺者には法定相続人のような遺留分は存在しませんので、自分の受遺分を全面的に侵害する特定遺贈があったような場合でも遺留分減殺請求権のような自分の持分を守る手段はありません。
  • 法人は包括受遺者になることはできますが、相続人にはなれません。

包括遺贈の効力は、遺言が効力を生じたとき、つまり遺言者が亡くなったときから当然に生じます。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持つことになるので、受遺分に応じて、遺贈者の一身専属権をのぞいて、遺贈者の財産に属した権利義務を包括的に承継します。

包括承継なので、遺贈者の債務も承継し、また他に特定遺贈があるときは、遺贈義務者にもなります。

特定遺贈とは

特定遺贈とは、「自宅の土地建物」「所有する自動車」というように対象となる財産を具体的に特定しておこなう遺贈のことをいいます。

相続や包括遺贈のような包括承継と異なり、特定遺贈は遺贈者から受遺者に対する一方的な利益の供与です。

特定遺贈を受ける人のことを「特定受遺者」といい、特定受遺者は、その目的財産についての特定承継者となります。

特定遺贈の目的財産は、特定物であっても、金銭その他の不特定物であってもよく、特定債権、金銭債権などの債権でも構いません。

特定遺贈は、遺贈者から受遺者への一方的な利益に供与なので、債務など不利益の供与を目的とする特定遺贈は認められません。

特定遺贈は遺言者が亡くなったときにその効力を生じ、その効力が発生すると同時に遺贈の内容である権利が受遺者へと当然に移転するとされています。

しかし金銭その他、不特定の物について遺贈がおこなわれる場合には、受遺者は遺贈義務者に目的物を特定して引き渡すようにという請求権を持つにとどまります。

受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は遺贈義務者に対して、相当の担保を請求することができます。

このことは、停止条件付遺贈(一定の条件の発生によって効力が生じる遺贈)について、その条件が成否が未定である間も同様です。

遺贈義務者が複数の場合には、それぞれ相続分に応じて担保を請求することができます。

受遺者は、遺贈の履行を請求することができるときから遺贈の目的物についての果実(物から生じる収益)を取得することができます。

ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。

遺贈義務者が、遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を出したときには、受遺者に対してその費用の償還を請求することができます。

遺贈と死因贈与の違い

遺贈 死因贈与
遺言者による単独行為 贈与者と受贈者による契約行為
受遺者(遺贈を受ける人)の意思は関係なし 贈与者と受贈者(贈与を受ける人)の意思の合致が必要
死後行為 生前行為
必ず書面(遺言書)で行う必要がある 必ずしも書面で行う必要はない
一方的に撤回可能 口頭でされた場合はいつでも撤回可能
書面に作成して行われた場合は遺贈者と受贈者との合意によって撤回可能

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