遺言の基礎知識


目次

遺言とは

遺言とは、被相続人(亡くなった方)が自分が亡くなった後、「自分の財産を誰に渡すのか、どれだけ渡すのか」という意思のことをいいます。その意思を書面に残したものが遺言書です。

遺言の読み方は、一般的には「ゆいごん」と読まれますが、法律用語としては「いごん」と読みます。

二人以上が共同で1通の遺言書を作成することは禁止されていますので、夫婦や親子でも別々の遺言書を作成する必要があります。

遺言書の種類

遺言書の種類には、「普通方式」と「特別方式」の2種類があります。

さらに普通方式の遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、特別方式の遺言は、「危急時遺言」「隔絶地遺言」の2種類があります。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言者本人が財産目録を除く遺言書の全文、日付、氏名を自分で書いて、押印することによって成立する遺言です。

財産目録以外は自分で書くということですので、パソコンなどで書いた遺言やボイスレコーダーや動画による遺言、DVDなど電磁的記録として作成されたものは自筆証書遺言としては無効です。

遺言の内容が正確に理解できればよいので、自筆であれば外国語、略字、速記文字で書かれていても問題ありません。

また、遺言書は全文が1枚の用紙に記載されている必要はなく、複数枚にわたっていても全体として1通の遺言書と確認できれば有効です。

自筆証書遺言の財産目録は、自分で書く必要はなく、パソコン等による作成、遺言者以外の人による代筆、不動産登記簿の写し、預貯金通帳の写しを添付する方法でも構いません。

自筆以外で作成された財産目録には、遺言者がそれぞれのページに署名・押印をしなければなりません。

もし自筆以外で作成された財産目録の一部のページに署名又は押印がなかった場合は、そのページのみが無効となります。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

メリット

  • 紙と筆記用具があれば作成できる
  • いつでも作成できる
  • 誰にも内容を知られず作成できる
  • 費用がほとんどかからない

デメリット

  • 作成方式に不備があれば無効となってしまう
  • 紛失したり、第三者が偽造、変造、破棄、隠匿するおそれがある
  • 遺言者の死後、家庭裁判所で検認を受けなければならない

自筆証書遺言の書き方

  1. 遺言書の全文を自分で書く
    ボールペンや万年筆など消えにくい筆記用具がよいでしょう。鉛筆は消えたり、改ざんされる恐れがあるため避けたほうがよいでしょう。
  2. 日付を自分で書く
    日付は年月日を記載するのが基本ですが、たとえば「70回目の誕生日」などのように日付の特定ができれば年月日が記載がなくても有効です。
    これに対して「令和○年○月吉日」といった記載では日付が特定できないので、日付を欠く遺言として無効とされます。
    遺言書が複数枚にわたっていても、1通の遺言書として作成されているときは、日付はそのうち1枚にあれば有効です。
    また、遺言書の本文と同一の書面に記載されている必要はなく、遺言書を封筒に入れて、封をして封筒に日付を記載したような場合も有効です。
  3. 氏名を自分で書く
    原則として氏名を記載することになりますが、遺言者だと特定できるのであれば、芸名や雅号、通称の記載でも構わないとされています。
    しかし、戸籍上の氏名を記載するほうが無用な争いを避けるためにもよいでしょう。
  4. 押印する
    印鑑の種類は問われず、拇印でも構いません。
    さらに主に外国人で押印する習慣がない人はサインでもよいとされていますが、できれば印鑑を用意してそれを押すほうがよいでしょう。

遺言書が複数枚になっても、それが1通のものとして作成されているときは、そのうち1枚に押印があれば足りますが、できれば遺言書に押した印鑑と同じ印鑑でそれぞれのページの継ぎ目に押印すると一体の文書だと理解されやすいでしょう。

自筆証書遺言を作成した後、これを封筒に入れておく必要はありませんが、家族や第三者に見られたくない場合は、封筒に入れてできれば遺言書に押した印鑑で封印しておくとよいでしょう。

自筆証書遺言の訂正方法

自筆証書遺言の訂正は、遺言者が

  1. 訂正の場所を指示する
  2. 変更した旨を付記して署名する
  3. その場所に印鑑を押す

自筆証書遺言の訂正は、厳格に方式が定められているため、無効となる恐れを排除するため間違えてしまったらできるだけ書き直すほうがよいでしょう。

公正証書遺言とは

公証役場にいる公証人が遺言者の希望を聞いて書面にして作成する遺言書です。

公正証書遺言のは自筆証書遺言と違って外国語で作成することはできません。

公正証書遺言作成には証人2名以上の立ち会いが必要となります。以下に該当する人は証人になれません。
  • 未成年者
  • 推定相続人、受遺者(遺言によって財産を受け取る人)及びこれらの配偶者並びに直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人

公正証書遺言のメリット・デメリット

メリット

  • 体が不自由で字が書けなくても作成できる
  • 法律の専門家である公証人が作成するため、形式不備で無効になるおそれがない
  • 原本が公証役場で保管されるため、紛失、偽造、変造、破棄、隠匿のおそれがない
  • 家庭裁判所で検認を受ける必要がないので、相続手続きの負担を軽減できる

デメリット

  • 作成手数料(公証役場手数料)がかかる
  • 証人を2人用意しなければならない
  • 自分だけで作成できない

公正証書遺言の作り方

  • 相談
    最寄りの公証役場で遺言書を作成したい旨とどのような内容にしたいのかなどの相談をします。
  • 原案確認
    相談をもとに公証人が公正証書遺言の原案を作成してくれるので確認します。問題なければその内容で作成を進めます。
    原案はメールやファックスでも送ってもらえます。
  • 公証役場へ出向く
    事前に決めた作成日時に公証役場へ出向きます。
    公証役場へ出向くことができない場合は、公証人に希望の場所へ出張してもらうことも可能です。
  • 作成
    公証人が遺言者及び証人2名の前で遺言の内容を読み聞かせ又は閲覧させるので、間違いなければ、公証人、遺言者、証人が原本に署名押印をして完成です。
    証人を準備できない場合は公証人に相談すると行政書士などの専門家を紹介してもらえます。
    押印は、証人は認印でも構いませんが、遺言者本人は実印を押します。
    遺言者が署名できない場合は、公証人が遺言者の氏名を代筆し、その氏名の次に遺言者に押印してもらうこともできます。
  • 保管
    完成した公正証書遺言の原本は公証役場で保管されます。
    公正証書遺言の保管期間は、遺言者の死亡後50年、遺言書作成後140年、遺言者が生まれてから170年間としています。

公正証書遺言の必要書類

  • 印鑑証明書
  • 実印
  • 相続人との続柄がわかる戸籍謄本
  • 相続人以外に財産を渡す場合はその人の住民票
  • 不動産の登記簿謄本及び固定資産評価証明書
  • 不動産以外の財産がある場合はそれらの内容がわかるメモ

秘密証書遺言とは

遺言者が作成した遺言書に封をして遺言書に使った印鑑で封印をし、遺言者本人しか遺言の内容を知らない状態にし、公証人及び証人2名に遺言書の存在を証明してもらう遺言書です。

遺言者は遺言書を自筆で書く必要はなく、パソコンなどを使っても構いません。

秘密証書遺言は検認が必要ですので、遺言書の開封は家庭裁判所で相続人又はその代理人の立ち会いのもとでおこなわなければなりません。

秘密証書遺言のメリット・デメリット

メリット

  • 公証役場で作成されるため、本人が作成した遺言書であることが証明しやすい
  • 遺言書の内容を秘密にできる

デメリット

  • 公証人による内容のチェックがおこなわれないため、作成方法不備による無効の可能性がある
  • 作成手数料(公証役場手数料)がかかる
  • 証人2人を用意しなければならない
  • 遺言書の保管を作成者本人がしなければならないので、紛失のおそれがある
  • 家庭裁判所で遺言書の検認を受けなければならず、手間と費用がかかる

秘密証書遺言の作り方

  1. 封印
    遺言者が署名押印した遺言書を封筒に入れ、遺言書に押した印鑑で封印します。
  2. 申告
    遺言者は公証役場へ出向いて公証人1人及び証人2人以上の前に封印した遺言書を提出して、自分の遺言書であることと氏名住所を申告します。
    秘密証書遺言は公正証書遺言と同じく証人2人が必要です。証人になれない人は公正証書遺言同様、推定相続人、受遺者(遺言によって財産を受け取る人)及びこれらの配偶者並びに直系血族などです。
  3. 署名押印
    公証人が日付及び遺言者の申告を封紙に記載したあと、遺言者及び証人とともに署名押印します。
  4. 保管
    秘密証書遺言は公証役場で作成されますが、公正証書遺言と違って自分で保管しなければなりません。

これらの作成方法を満たしていない秘密証書遺言は無効となります。

しかし封をされた遺言書が遺言者の自筆で書かれており、自筆証書遺言の要件を満たすものである場合には、無効となった秘密証書遺言は有効な自筆証書遺言として効力が認められます。

危急時遺言とは

危急時遺言とは、死亡の危険が差し迫った状態にある場合に認められている特別方式の遺言方法で、「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」があります。

一般危急時遺言とは

一般危急時遺言は臨終遺言とも呼ばれ、一般に死亡の危険が迫っている場合に認められています。

一般危急時遺言の要件は、次のとおりです。

  • 遺言者が、疾病その他の事由によって死亡の危急が迫っていること。
  • 証人3人以上の立会いがあること。
  • 遺言者が、証人の1人に遺言の趣旨を口頭で伝える。遺言者がしゃべることができない場合は通訳によることも可能。
  • 遺言の趣旨を伝えられた証人は、これを筆記して遺言者および他の証人に読み聞かせる。
  • 証人がそれぞれ筆記された内容が正確であると認めた後、これに署名と押印する。

難船危急時遺言とは

難船危急時遺言は、船舶遭難の場合において、死亡の危険が迫ったときに認められ、船舶遭難者遺言とも言われています。

難船危急時遺言の要件は、次のとおりです。

  • 遺言者が、船舶遭難の場合において船舶の中にいて死亡の危険が迫っていること。
  • 証人2人以上の立会いのもとで口頭で遺言をすること。遺言者がしゃべることができない場合は、通訳によることも可能。
  • 証人が遺言の趣旨を筆記して、これに署名・押印する。証人の中に署名又は押印することができない人がいるときは、証人はその理由を付記する。

危急時遺言の効力発生

上記の要件を満たすことによって、それぞれの危急時遺言は成立しますが、効力を発生させるためには、家庭裁判所による確認が必要となります。

危急時遺言は、いずれも口頭で遺言をしますので、遺言者の本当の気持ちから出たものかどうかをきちんと確認する必要があるからです。

家庭裁判所へ確認を請求するのは、証人の1人または利害関係人です。

確認の請求期間は、一般危急時遺言の場合は「遺言の日から20日以内」、難船危急時遺言の場合は「遅滞なく」です。

確認は家庭裁判所の審判によって行われ、これらの遺言が遺言者の真意でされたものであると確認できない場合は、遺言は無効となります。

隔絶地遺言とは

隔絶地遺言とは、一般の社会との交通が法律上または事実上絶たれていて、遺言を作成する際の証人や立会人を探すことが難しい場所にある場合に認められる遺言の方法です。

隔絶地遺言は、「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」があります。

一般隔絶地遺言とは

一般隔絶地遺言は、伝染病にかかってしまったために隔離され、交通手段を絶たれた人に認められた遺言の方法です。

しかし伝染病以外にも交通手段が絶たれる状況は考えられ、事情は変わらないことから、一般の場合にもこの方法による遺言は認められるもので、まとめて一般隔絶地遺言と呼ばれています。

一般隔絶地遺言の要件は、次のとおりです。

  • 遺言者が伝染病のため行政処分によって交通を絶たれた場所にいる、あるいは刑務所への収容など外部の一般社会との自由な交通が絶たれている場所にいること。
  • 警察官1人および証人1人以上の立会いがあること。
  • 遺言書は遺言者が自筆する必要はないが、遺言者、筆者、立会人、証人は、それぞれ遺言書に署名と押印をすること。

船舶隔絶地遺言とは

船舶隔絶地遺言は、船舶の中にいる人に認められる遺言の方法です。

船舶隔絶時遺言の要件は、次のとおりです。

  • 遺言者が船舶の中にいること。
  • 船長または事務員1人および証人2人以上の立会いがあること。
  • 遺言書は遺言者が自筆する必要はないが、遺言者、筆者、立会人、証人がそれぞれ遺言書に署名と押印をすること。

遺言で出来ること

相続分の指定または指定の委託

法定相続分とは異なる相続分の割合を指定したり、その指定を第三者に委託することができます。

遺産分割の方法の指定や指定の委託

誰にどの財産を相続させるかを指定したり、その指定を第三者に委託することができます。

遺贈

法定相続人ではない第三者に財産をあげることができます。

特別受益者の相続分の指示

相続人の中で生前贈与などで特別に受益を受けた人は、その分を相続分から差し引かれますが、遺言によって差し引かないようにしたり、その額を指定することができます。

遺産分割の禁止

相続開始のときから最長5年間、相続財産の分割を禁止できます。
分割したら事業が上手く継続できない等のときに遺言書に記載します。
例えば、農地を分割したら農業の継続が困難になるときが該当します。

相続人相互の担保責任の指定

遺言書どおりに相続財産を分割した後、その相続財産に瑕疵(隠れた欠陥)があった場合、それを受け取った相続人は他の相続人より損をしてしまいます。
その損した分を他の相続人で担保することになりますが、この担保責任を誰か1人に負担させたり、割合を定めることを遺言書で指定できます。

遺留分減殺方法の指定

他の相続人の遺留分を侵害する遺言書を作成した場合、まず、どの相続財産から遺留分請求の対象とするかを指定できます。

負担付き遺贈

財産を無条件にあげるのではなく、何らかの義務の履行を条件にすることができます。
例えば、「子供に家を相続させるかわりに母親(遺言者の妻)と同居して生活の面倒をみる」「現金100万円を遺贈するかわりに飼っているペットの世話を最後までする」などが負担付遺贈です。
もし相手が財産を受け取って義務を履行しない場合は、他の相続人や遺言執行者は家庭裁判所に遺言の取り消しを訴えることができます。

財団法人設立の寄付行為

財団法人を設立するための寄付ができます。

信託の設定

銀行など信託できる金融機関を指定して、財産を預けて管理・運用してもらうことができます。

子供の認知

夫婦間以外の子供である非嫡出子/婚外子の認知ができます。

推定相続人の廃除・廃除の取り消し

将来、相続人になる予定の推定相続人を相続人から廃除したり、廃除を取り消すことができます。

子供の後見人・後見監督人の指定

自分の死後、親権者のいない子供がいる場合、その子供の監護や財産管理をおこなう後見人や、後見人がきちんと仕事しているかチェックする後見監督人を指定できます。

祭祀主宰者の指定

お墓を守ったり、仏壇や仏具を管理する祭祀主宰者を指定できます。

遺言執行者の指定・指定の委託

遺言書の内容を実行する遺言執行者を指定したり、その指定を第三者に委託することができます。
遺言執行者を指定することで確実に遺言書の内容が実現できます。

遺言書を作成するメリット

相続争いを未然に防げる

遺言書がない場合、相続財産の分割方法は相続人間での遺産分割協議によっておこないます。

しかし相続人が1人でも自分の都合の良い主張すると遺産分割協議がなかなか進まず、いつまでも相続手続きが終わらなかったり、最悪の場合、裁判に発展することもあります。

もし遺言書を作成していれば、遺産分割協議をすることなく相続手続きを迅速に進めることができ、無用な遺産相続争いを防ぐことができます。

特定の人に特定の財産を残せる

遺言書がなければ、原則として法定相続分で遺産を分割することになりますが、法定相続分にとらわれない分割方法も可能なので、場合によっては、誰か1人が相続財産を独占しようとしたり、不利な遺産分割で不満を持つ相続人が出るかもしれません。

また、きっちり法定相続分で遺産を分割することはほとんど不可能ですし、遺産の種類がいくつかあるなら、誰がどの財産を相続するかで揉める可能性もあります。

遺言書があれば特定の財産を特定の人に相続させることができます。

相続手続きの負担を軽減できる

相続手続きは、たいてい時間と手間がかかるものですが、遺言書があれば相続財産の内容がある程度把握できるので、相続手続きをスムーズに進めることができます。

また、公正証書遺言を作成していれば、検認手続きが不要となるため、相続手続きを進めやすくなるので、遺族の負担を大幅に軽減することができます。

相続人以外に財産をあげられる

遺言書に作成することによって、相続人以外に財産をあげることができます。

「お世話になった人に財産をあげたい」、「どこかに寄付して社会の役に立てほしい」といった思いをかなえられます。

死後の希望を残せる

法的な強制力はありませんが、遺言書に葬儀の方法やお墓についての希望を記載しておくと、遺族はその思いをできるだけかなえてくれるよう努力してくれるでしょう。

遺言に対する誤解

法定相続分で分ければ大丈夫

遺言書がない場合は、原則として法定相続分で遺産を相続することになりますが、実際は遺産分割協議が調えば、どのように遺産を分けても構いません。

また、遺産のすべてが預貯金や現金、換金が容易な株式であれば分け方に問題が起こる可能性は低いですが、不動産や高価な骨董品など換金が難しく、法定相続分で分けにくいものがあります。

このようなものがある場合は、遺産分割の割合やどの遺産を相続するかでトラブルが起こる可能性があります。

家族の仲が良いから大丈夫

今は家族の仲が良いかもしれませんが、いずれ誰かが亡くなったときにその関係が保てるとは限りません。

特に両親が亡くなった場合に家族関係がギクシャクし、トラブルになることはよくあります。

また、家族の仲が変わらない場合でも、それぞれの配偶者が遺産分割の方法について口出ししてくることもありえるので注意が必要です。

家庭裁判所に持ち込まれる相続トラブルは年々増加しているので、自分の死後のことをもう少し考え、相続人同士のトラブルを未然に防ぐためにも遺言書の作成を考える必要があるかもしれません。

もっと年をとってからでいい

もっと年をとってから遺言書を作成しようと考えている人の多くは、結局そのまま何もしないままというのが多いのではないでしょうか。

ある程度の年齢で自分名義の財産があるようでしたら遺言書を作成するのに遅いということはありません。

むしろあまり年をとりすぎると認知症などで判断能力に問題が出て、遺言書を作成できないということもあります。

財産がそんなにないから必要ない

財産がそんなにないからといっても相続手続きが必要なことに変わりはありません。

不動産に価値がなくても名義人を変更するための相続登記が必要ですし、銀行口座をたくさん持っていれば名義変更や解約手続きに手間がかかります。

また、財産が少なくても相続人が多ければ、遺産分割協議に時間と手間がかかります。

遺産分割協議が終わらなければいつまでたっても相続手続きが完了しないことになります。

遺言書があれば迅速に相続手続きを進めることができるので、財産が少ないといっても作成するメリットはあります。

遺言書が必要とされる人

遺言書は誰もがいずれ作っておいたほうがよいものですが、以下に当てはまる人は、特にその必要性が高いといえます。

子供がいない夫婦

例えば、夫が先に亡くなった場合に夫の親や夫の兄弟姉妹が生きていれば、それらの人は相続人になります。また夫の親や夫の兄弟姉妹がいなくても夫の甥や姪がいれば相続人になります。

相続手続きをおこなうには、夫の親や兄弟姉妹との遺産分割協議が必要になりますので、場合によっては法定相続分の財産を分けろと言われる可能性があります。配偶者が滞りなく相続手続きするためには遺言書が必要です。

子供が複数いる夫婦

子供の法定相続分は平等ですが、どの財産を誰が相続するかは遺産分割協議によって決めますので、トラブルになることがよくあります。

また、親の面倒を見ていたり、介護をしていた子供とそれ以外の子供で相続する財産の割合でもめたり、親から受けていた援助の差でお互いの主張を通そうとして話し合いが進まない可能性があります。

単純に仲良く法定相続分で分けるだろうと考えず、特別の貢献がある子供がいる場合はその状況に配慮して、誰にどの財産を相続させるかをきちんと決めておくとよいでしょう。

相続人以外に財産をあげたい人

例えば、息子の配偶者に介護などでお世話になったので、財産をあげたいと思っていても息子の配偶者は法定相続人ではないので、財産を相続することはできません。

特別寄与料の請求権があるとはいえ、親族に対して請求するのはなかなか難しいかもしれないので、このような相続人以外の第三者に財産をあげたい場合は、遺言書を作成することで問題を解消できます。

また、福祉施設や市区町村などにも寄付することができます。

独身で家族以外に財産をあげたい人

独身の人が亡くなると親か兄弟姉妹が財産を相続することになります。

もし、事実婚のパートナーや友人、どこかの施設に寄付したいと思っているなら遺言書を作成する必要があります。

身寄りのない人が亡くなった場合、その人の財産は国庫に帰属することになりますので、お世話になった人に財産をあげたいと思っているなら遺言書を作成しておきましょう。

離婚・再婚をしている人

前の結婚と再婚の両方で子どもが場合は、その子供たちは、異母兄弟・異父兄弟として相続人になります。

ほとんど面識もない子供同士であればなおさら遺産分割でトラブルが起こる可能性があるので、遺言によって財産分与の方法を決めておくとよいでしょう。

気になる家族やペットがいる人

自分が死んだ後に病気や障害のある家族、未成年の子供、大切なペットが心配だという人は、きちんと面倒をみてくれることを条件に信頼できる人に財産をあげるように遺言することができます。

結婚していない人との間に子供がいる場合に遺言書で認知して相続人とすることができますし、認知せずに財産をあげるように遺言を残すこともできます。

避けたほうがよい遺言の内容

相続分を指定する遺言

「被相続人の財産を妻に3分の2、長男に6分の1、二男に6分の1の割合で相続させる」といった内容の遺言では、具体的にどの財産を誰が相続するのかを協議する必要がありますので、できるだけ「自宅不動産を妻、会社の株式を長男、預貯金を二男」というように相続させる財産を具体的に遺言書に記載したほうがよいでしょう。

一部の財産のみの遺言

一部の財産、例えば自宅不動産についてのみ遺言書に記載するのは、上記と同じようにその他の財産について遺産分割協議をしなければならないので、できるだけ全ての財産の分割方法を指定しておくとよいでしょう。

不動産を共有とする遺言

不動産を共有させると、処分する際に共有者間で協議する必要があり、単独所有よりも手間がかかります。

もし共有者同志が不仲の場合ですとますます処分が難しくなりますので、不動産を共有で相続させるのはやめたほうがよいでしょう。

おすすめは公正証書遺言

公正証書遺言は他の作成方式よりも安全性や確実性が高いところにメリットがあり、主に次のような特徴があります。

法律の専門家である公証人が作成してくれる

自筆証書遺言の場合、自分で遺言の内容を考え、財産目録を除いてすべてを自分で書かなければなりません。

しかし公正証書遺言の場合だと、法律の専門家である公証人が遺言者の希望に沿って法的に有効な遺言書を作成してくれます。そしてその遺言書に署名・押印すれば完成します。

紛失や改ざんなどの恐れがない

公正証書遺言の原本は公証役場に保管されるので、遺言書を紛失する恐れがありません。

また他人に書き換えられたり、破棄される心配もありません。

遺言者本人の意思で作成したことが証明しやすい

自筆証書遺言の場合だと相続人の誰かが無理矢理遺言書を書かせたのではないかと疑われ、トラブルになることがあります。

しかし公正証書遺言の場合だと公証人と証人2名が作成に立ち会うため、本人の意思で作成したことを証明しやすくなります。

体が不自由でも作成できる

自筆証書遺言の場合、財産目録を除いてすべてを自分で書かなければならないので、体が不自由であれば作成できません。

しかし公正証書遺言の場合は、体が不自由でも公証人がその旨を付記して署名とすることができます。

また、公証役場に行くことができない場合でも公証人が希望の場所に出向いてくれますので、自宅などでも作成できます。

検認を受けずに相続手続きができる

公正証書遺言以外の遺言書は基本的に家庭裁判所で検認を受けなければなりません。

検認は家庭裁判所に申し立てから1~2ヶ月程度かかりますし、戸籍謄本などの書類も提出しなければなりません。

しかし公正証書遺言はこの検認を受ける必要がなく、相続発生後すぐに手続きに移ることができるので、家族の負担を減らすことができます。

自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言は、紛失したり、相続人によって書き直されたり、破棄される恐れがあり、紛争が起きる可能性があるため、これを防止するために法務局による自筆証書遺言の保管制度が誕生しました。

この制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続きを受ける必要がありません。

自筆証書遺言の保管申請の必要書類等

自筆証書遺言の保管申請に必要な書類は次の通りです。

  • 封印されていない遺言書
  • 保管申請書(法務局で入手できます)
  • 本籍及び筆頭者が記載された住民票の写し(マイナンバーや住民票コードは不要)
  • 顔写真付きの身分証明書
  • 手数料(3,900円)

保管制度を利用する自筆証書遺言は、A4サイズで作成し、裏面は何も記載しないようにしてください。

自筆証書遺言の保管申請を行う場合、本人確認のため遺言者自らが法務局に出向く必要があります。

保管申請は次のいずれかの場所を管轄する法務局で行います。

  • 遺言者の住所地
  • 遺言者の本籍地
  • 遺言者が所有する不動産の所在地

保管されている自筆証書遺言の閲覧

遺言者はいつでも保管されている遺言書の閲覧を請求できます。

その際、保管申請のときと同様に遺言書が保管されている法務局に遺言者自らが出向く必要があります。

保管申請の撤回

遺言者はいつでも保管されている自筆証書遺言の保管を撤回することができます。

この場合も遺言者自らが法務局に行く必要があります。

遺言書の撤回がされた後は、遺言書は返還されます。

遺言書情報証明書

相続が開始した後(遺言者が死亡した後)、関係相続人等は保管されている自筆証書遺言の内容等が記載された証明書の交付を請求できます。

この証明書を「遺言書情報証明書」といいます。

遺言書情報証明書の交付を請求できる主な関係相続人等は次の通りです。

  • 遺言者の相続人
  • 受遺者(遺言によって財産を受け取る人)
  • 認知された子(胎児の場合は子の母)
  • 遺言執行者

関係相続人等は自分が関係相続人等に該当する遺言書について、遺言書情報証明書の交付を法務局に請求することができます。 この請求は遺言書が保管されている法務局以外でもできます。

また、関係相続人等は遺言書の閲覧を請求することもできますが、これは遺言書が保管されている法務局に対して行います。

上記によって遺言書情報証明書の交付をした場合や遺言書を閲覧させた場合は、法務局の担当者は、その遺言書の相続人、受遺者、遺言執行者に対して通知することになっています。

遺言書保管事実証明書

相続が開始した後、自分が関係相続人に該当する遺言書が保管されているかどうかについての証明書を法務局に対して請求することができます。

この証明書を「遺言書保管事実証明書」といいます。

遺言書保管事実証明書の交付請求は遺言書が保管されている法務局以外の法務局でもできます。

前記の遺言書情報証明書は、関係相続人等にしか交付請求が認められていませんが、この遺言書保管事実証明書は、自分が関係する遺言書が存在するかどうかを調べるためのものですので、誰でも交付請求ができます。

流れとしては

  1. 「遺言書保管事実証明書」を取得して、遺言書が「存在」するかを確認
  2. 遺言書が存在する場合に「遺言書情報証明書」を取得して「内容」を確認

遺言書作成と認知症

遺言書作成にあたって一番問題となるのは高齢者で認知症が進行し、遺言書作成時にそれを作成する能力が存在したかどうかです。

遺言作成時に意思能力がなかった場合は、その遺言書は無効となります。

自筆証書遺言の場合、自分で遺言内容を記載する必要があるので、裁判例でもその内容が合理的で理解可能なものであれば有効とされるようです。

なお、自筆証書遺言の場合、意思能力の判断資料として財産の分配方法についての理由などを書いておくとよいでしょう。

公正証書遺言の場合、遺言者は公証人に作成したい遺言の内容を伝えるだけなので、遺言当時に意思能力が存在したかどうかについて遺言者の死後、裁判で争われるケースがみられます。

公証人は認知症が疑われるケースでは、必ず事前に遺言者と面談し、その意思能力の有無を確認したり、担当医師の意見を聞いたり、場合によっては診断書を求めたりしてその意思能力の有無を判断しています。

遺贈とは

遺贈とは、遺言によって自分の財産を無償で他人に贈与することいい、遺贈の効力は、遺言が効力を生じたとき、つまり遺言者が亡くなったときから生じます。

遺贈をする人を「遺贈者」といい、遺贈を受ける人を「受遺者」といいます。

受遺者は、遺言が効力を生じたときに生きている必要がありますので、受遺者が遺言者の死亡以前に死亡したときは、遺贈の効力は生じません。

赤ちゃんや小さな子供はもちろん、まだ産まれていない胎児もすでに生まれたものとみなされるので、受遺者になれます。

受遺者の相続人は、受遺者の地位を引き継ぐことができないので、遺言者が遺言で別段の意思表示をしていない限り、遺贈の対象財産は相続人に相続することになります。

遺贈は、死亡によって効力が発生する無償の財産処分という点で「死因贈与」に似ています。(遺贈と死因贈与の違いについては以下に記載)

遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。

また、条件や始期をつけた遺贈や受遺者に一定の義務を負担させることを内容とした遺贈である「負担付き遺贈」も認められています。

包括遺贈とは

包括遺贈とは、遺言者が遺産に抽象的な割合で示しておこなう遺贈のことをいいます。

「遺産の2分の1」、「遺産の30%」といった割合で示すのが典型的ですが、「遺産全て」という場合も包括遺贈に含まれます。

これに対して、「遺産の中の不動産を全部」とか「〇〇銀行の預金の2分の1」といった場合には、割合で示されていますが、対象が特定されていますので、通常は特定遺贈と考えられます。(特定遺贈については以下に記載)

包括遺贈を受ける人を「包括受遺者」といい、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。

相続人と包括受遺者の違いは次のようになっています。

特定遺贈とは

特定遺贈とは、「自宅の土地建物」「所有する自動車」というように対象となる財産を具体的に特定しておこなう遺贈のことをいいます。

相続や包括遺贈のような包括承継と異なり、特定遺贈は遺贈者から受遺者に対する一方的な利益の供与です。

特定遺贈を受ける人のことを「特定受遺者」といい、特定受遺者は、その目的財産についての特定承継者となります。

特定遺贈の目的財産は、特定物であっても、金銭その他の不特定物であってもよく、特定債権、金銭債権などの債権でも構いません。

特定遺贈は、遺贈者から受遺者への一方的な利益に供与なので、債務など不利益の供与を目的とする特定遺贈は認められません。

特定遺贈は遺言者が亡くなったときにその効力を生じ、その効力が発生すると同時に遺贈の内容である権利が受遺者へと当然に移転するとされています。

しかし金銭その他、不特定の物について遺贈がおこなわれる場合には、受遺者は遺贈義務者に目的物を特定して引き渡すようにという請求権を持つにとどまります。

受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は遺贈義務者に対して、相当の担保を請求することができます。

このことは、停止条件付遺贈(一定の条件の発生によって効力が生じる遺贈)について、その条件が成否が未定である間も同様です。

遺贈義務者が複数の場合には、それぞれ相続分に応じて担保を請求することができます。

受遺者は、遺贈の履行を請求することができるときから遺贈の目的物についての果実(物から生じる収益)を取得することができます。

ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。

遺贈義務者が、遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を出したときには、受遺者に対してその費用の償還を請求することができます。

遺贈と死因贈与の違い

遺贈 死因贈与
遺言者による単独行為 贈与者と受贈者による契約行為
受遺者(遺贈を受ける人)の意思は関係なし 贈与者と受贈者(贈与を受ける人)の意思の合致が必要
死後行為 生前行為
必ず書面(遺言書)で行う必要がある 必ずしも書面で行う必要はない
一方的に撤回可能 口頭でされた場合はいつでも撤回可能
書面に作成して行われた場合は遺贈者と受贈者との合意によって撤回可能

遺言執行者とは

遺言執行者とは、遺言者の指定または家庭裁判所の選任によって、遺言の内容を実現するために就任した者をいいます。

遺言執行者には人だけでなく、法人もなれます。

未成年者や破産者は遺言執行者にはなれませんが、未成年者でも結婚している場合には、遺言執行者になれるとしています。

また成年被後見人、被保佐人、被補助人でも遺言執行者になれますが、後から成年被後見人等になったときは解任事由になると考えられています。

遺言執行者には複数人を指定することができ、またその指定を第三者に委託することもできます。

遺言執行者がいないときは、家庭裁判所は利害関係人の請求に基づいて、遺言執行者となる者の意見を聞いたうえで、審判によって遺言執行者を選任することができます。

遺言執行者として遺言に指定あるいは選任されたとしても遺言執行者に就任するかどうかは自由ですので、就任を拒否することもできます。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務をもっていますが、遺言が特定の財産に関するものである場合には、その財産についてのみ権利義務を持ちます。

遺言執行者は、「その任務を怠ったときその他正当な事由があるとき」は解任されるとしています。

「任務を怠ったとき」とは、遺言執行者が任務を放置し、実行しない場合や相続財産を正当な理由なく相続人に引き渡さない場合、遺言執行の報告を理由なく拒絶するなどが該当します。

一方、相続財産の目録を作成するにあたって相続人の協力が得られず、財産目録の作成が遺言執行者に就任してから半年後になり、その一部に欠陥があった場合や不動産の移転登記手続き及び財産の引き渡しが終了していて、遺言の執行をすべきものがない場合に遺留分権利者から相続財産の目録の作成や管理状況の報告を求められた遺言執行者が何もしない場合は任務を怠ったとはいえないとしています。

「正当な事由があるとき」とは、長期間にわたって遺言執行行為の障害となるような病気、行方不明、不在などのほか、遺言執行者が一部の相続人の利益に加担し、公正な遺言の実現ができない場合などがこれにあたるとされています。

遺言の解釈をめぐる争いは、解任事由にはならないとされています。

遺言執行者の解任手続きの管轄は、相続開始時の家庭裁判所とされ、申立人は、遺言の執行に法律上の利害を有するすべての人とされ、具体的には、「相続人(遺言によって認知された子を含む)」、「受遺者」、「共同遺言執行者」、「相続債権者(遺言者に対して債権を有する人)」、「受遺者の債権者及び相続人の債権者」が含まれると解されています。

遺言執行者は、解任請求の申し立てがされただけでは、その地位を失ったり、職務を停止されることはありません。

しかし家庭裁判所は申し立てにより、解任の審判があるまで、遺言執行者の職務を停止したり、代行者を選任することができます。

遺言執行者は、解任の審判が確定したときにその地位を失います。

解任された遺言執行者であっても、相続人や受遺者などに対する報告義務があり、これを怠ったために相続人などが損害を負った場合は、損害賠償責任が生じます。

検認とは

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遺言書の検認とは、相続人に対し遺言の存在やその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。

あくまで遺言書の状態や内容を確認するためであって、遺言書が有効か無効を判断する手続きではありません。

遺言者の死亡後、遺言書を保管している人や遺言書を発見した相続人は、遺言書を被相続人(遺言者)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません。

封筒に入っていて封印してある遺言書の場合、勝手に開封することはできず、家庭裁判所で相続人又はその代理人の立ち会いのもとで開封することになります。

これに反して勝手に開封すると、5万円以下の過料に処せられます。

自筆証書遺言の検認の請求がされると、家庭裁判所から検認期日の通知があります。

これは検認の立ち会いの機会を与えるためですが、立ち会うかどうかは自由です。

所在が分からない相続人に対しては、戸籍の附票の最後の住所地に通知されることになりますが、この通知が到達しなかった場合でも検認の立ち会いの機会を与えたことになります。

検認を受けていない自筆証書遺言では不動産の登記や預貯金の解約ができません。

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